3月末といえば、やっぱり卒業シーズン。

別に世界中に住んだ訳ではないが、日本の春は世界一だと思う。

この暑くも寒くもない気温、春の匂い。卒業式のなんとも切ない感情が湧いてくるような雰囲気。最高だ。

かと言って、私は別に青春時代、卒業式後に桜の木の下で告白されたり、「先輩・・・第二ボタンください!」とか頬を赤めた後輩に言われたり、部活の後輩たちが「先輩!」とか言いながら涙で見送ってくれたりした思い出は全くない。

むしろ高校なんて部活なんていっさいやってないし、てか学校に桜の木なんてなかったし。

私服OKだったし、一応制服あったけどブレザーだったから第二ボタンがどこかもわからなかったし。

おじさんになって、勝手に春になると切ない気持ちになっているだけで、それに見合う青春時代は一切送っていない。

・・・まぁ強いて私の卒業式の思い出を挙げるとすれば、やっぱり小学校の卒業式だろう。

小学校時代、私はいわゆる普通の男の子だった。スポーツができたわけでもなく、勉強ができたわけでもなく。普通に友達がいて、普通に生活をしていた。

特別モテたわけでもない。

本当に普通の小学生だった。あえて言うなら普通の子よりちょっとゲームが好きだった。ドラクエ4はかなりやりこんだ。

そんなTHE・普通の小学生時代を送っていた私にも、ついに小学校を卒業する日がきた。

大した思い出がないとはいえ、6年間一緒に過ごしてきた仲間と別れるのは私とっても少し寂しかった。

私の通っていた小学校は、ちょうど学区と学区の中間地点に位置しており、卒業したら3つか4つくらいの中学校にみんなドラゴンボールのようにバラバラに通うことになるのが確定していた。

その事実も知っていたので、余計に寂しくなった。

卒業式で「僕たちー 私たちはー そつぎょーしまーす」という棒読みの門出の言葉が終わった頃には、もうけっこうな人数の子が泣いていた。

私の隣にいた女の子が、泣きながら鼻ちょうちんが出ていたのを見てちょっと笑ってしまったのを覚えている。

不意打ちの鼻ちょうちんにも耐え、卒業セレモニーも無事に終わり、教室に帰っていよいよ荷物を抱えて出て行こうとした時、担任の先生(当時30代中盤の男の先生)が黒板の前に神妙な顔で立っていた。みんな机に座っていた。

黒板には、卒業式の前には書いてなかった文字が書いてあった。

黒板に書いてあったのは、「さようなら」という卒業式ではわりと定番の歌の歌詞だった。

状況がよくわからず、みんな神妙な顔で大人しく座っていると、

「みんな、卒業おめでとう」

と、先生が話し始めた。

「今日からみんな、この学校を卒業して別々の中学校に行きます。これから楽しいことも辛いこともあるだろうけど、この小学校で過ごした楽しい思い出をいつまでも忘れずに過ごしてください」

確かこんなことを言っていたと思う。

そして最後に、

「卒業するみんなへ、先生から歌をプレゼントします。」

と言い、先生が歌い始めた。

すばらしいときは やがて去り行き
今は別れを 惜しみながら
ともに歌った 喜びを
いつまでも いつまでも 忘れずに

楽しいときは やがて去り行き
今は名残を 惜しみながら
ともに過ごした 喜びを
いつまでも いつまでも 忘れずに

心の中に 夢を抱いて
明日の光を 願いながら
今日の思い出 忘れずに
いつかまた いつかまた あえる日まで 

たぶん、クラスにいた全員が泣いていたと思う。

私を除いて。

事件は先生が2番の「今は名残りを・・・」を歌ってるあたりで起きていた。

となりに座っていた例の女の子が、今まで見たこともないくらいの超特大の鼻ちょうちんを出したのだ。

あんな特大なのは、38歳の未だかつて漫画以外で見たことはない。

テニスボール、いや、ソフトボールくらいあったのかもしれない。

割れる時も「ポプッ!」みたいな音がしていたと思う。これは私の記憶の中で面白いように書き換えられてるだけかもしれないが、その音がまた面白かった。

あの鼻ちょうちんはすごかった。私は先生の歌そっちのけで、「また出ないかな?」とその子の鼻を凝視していた。

「もう一度見たい・・・もう一度見たいっ!!」

私の頭はその想いに支配されていた。

先生の歌が終わり、先生も泣いていた。生徒みんなの嗚咽、啜り泣く声が聞こえる中で、私はずっとその子の鼻を見ていた。

ついぞ超特大鼻ちょうちんは2度と出てこなかった。惜しいのは何回かあった。

最後はみんなで在校生に見送られ、校庭を通って小学校を出た。母親が『タンスにゴン』の匂いがする綺麗めの服を着て待っていたと思う。

定番の看板の前で2人でとった写真は今もどこかにある。

あの写真を見るたびに、あの時の感動の超特大鼻ちょうちんを思い出す。

この春卒業するみんな、卒業おめでとう。

また、まだ卒業まで時間のあるみんなは、悔いのないようにたくさん青春の思い出を残して欲しい。

君たちは決して、青春を鼻ちょうちんで終わらせてはいけない。

先輩からのアドバイスである。